電磁クラッチ・電磁ブレーキとは?その種類と構造
- 無励磁ブレーキの動作原理 動画をアップしました!
電磁クラッチ・電磁ブレーキとは
電磁クラッチ・電磁ブレーキとは、コイルに通電することにより発生する電磁力を利用して動力や回転運動を制御する装置です。クラッチは動力の連結と切り離し、ブレーキは回転運動の制動と保持を行い、その作動方法によって励磁作動形と無励磁作動形に分けることができます。
この電磁クラッチ・ブレーキについて、以下で詳しく説明していきます。
「クラッチ」「ブレーキ」などの機械部品は一般的に自転車や自動車などにも利用されているため、日々いたるところで目にするかと思います。
しかしクラッチ・ブレーキと一口に言っても、実は様々な種類があります。
大まかに分けると機械式クラッチ・ブレーキ、油圧式クラッチ・ブレーキ、空圧式クラッチ・ブレーキ、電磁クラッチ・ブレーキなどが挙げられます。
これらはその名の通り機械や油圧、空圧、電磁力などでクラッチやブレーキを作動させて利用します。
その中で 産業用に用いられ、一般的によく利用されているのが、電磁力で作動する電磁クラッチ・ブレーキです。
このような産業用のクラッチやブレーキは機械や装置などの製品に組み込まれて利用されることが多いため、使われているところを直接見る機会はそうそうありません。 しかしそれらは様々な機械の動力制御をする上で非常に重要な役割を果たしているのです。
以下ではその「電磁クラッチ・電磁ブレーキ」について詳しく解説していきます。
 目次
電磁クラッチとは?電磁ブレーキとは?
電磁クラッチと電磁ブレーキとは、電磁力を利用して動力を制御する機械要素のことです。
動作原理が似ているためよく、「クラッチ・ブレーキ」などとひとまとめに言われていますが、役割は全く違います。それぞれの役割は以下の通りです。
電磁ブレーキの役割:動力を止める
電磁ブレーキとは動力を止めるための機械要素です。
電磁力によりいろいろな運動を停止・保持したり減速したりすることができます。
実際には搬送物の昇降機構などでよく用いられます。
以下の図のように搬送部をある位置まで上昇させたり、決められた位置で止めたりする際にブレーキを利用しています。
保持とは、機械や装置において、止めた場所から動かないようにするための働きのことです。
例えば以下の図では、ロボットが搬送物を昇降台に乗せる作業中、昇降台を決められた位置で保持し続けるためにブレーキを使用しています。
電磁クラッチの役割:動力を伝える、遮断する
電磁クラッチとは電磁作動によって従動側で動力を伝えたり切ったりするための機械要素です。
簡単に言うと、動力を止めずに動力の切り離しや連結ができます。
電磁クラッチは、電磁ブレーキと比べてその動作や役割が理解しづらいと思いますので、まずは以下の動画を見てみてください。
クラッチがどのように使われているのかというと、たとえば以下の図のように、電動機(モータ)とコンベア(負荷)の間に取り付けることによって、モータからコンベアに動力を伝えたり、切ったりという働きを動力を止めずに(モータなどをOFFにせずに)行うことができます。
クラッチを理解する上で一番重要な点は「動力を止めずに動力を制御できる」ということです。
この図では一基のモータで3台のコンベアを動かしていますが、例えばもしどれか一つをイレギュラーなどで止めなければいけなくなったとします。
そのようなとき、クラッチを利用していれば、モーター(他の2台)を止めることなく必要なコンベアだけを止めることが出来ます。
- まとめ① ブレーキの役割
- ・動力を停止・保持したり減速をしたりする役割
- まとめ② クラッチの役割
- ・動力を伝達、または遮断する役割
それでは次に、クラッチやブレーキにはどんな種類があるのかを見ていきましょう。
電磁クラッチ・電磁ブレーキの種類
電磁クラッチ・ブレーキの方式には「摩擦式」「カミアイ式」「空隙式」「スプリング式」などがあります。
これらはトルクを発生させるための方法によって分類されています。
種類ごとに特長があるため、用途によって使いわける必要があります。
この中で、 産業用として最も利用されているのは構造が簡単で安価、制御性に優れた「摩擦式」です。
摩擦材を押し付けあうことによってトルクを発生させます。
三木プーリでは主にこの摩擦式を取り扱っていますが、カミアイ式の「ツースクラッチ」やスプリング式の「無励磁作動形ブレーキ」なども取り扱っています。
三木プーリで取扱いのあるクラッチ・ブレーキを中心に、種類ごとの特長を説明していきます。
三木プーリの電磁クラッチ・ブレーキの種類
電磁ブレーキの種類
三木プーリの電磁ブレーキには励磁作動形と無励磁作動形という方式があります。
電磁ブレーキを扱う上で「励磁」や「無励磁」という言葉がよく使われていますが、 「励磁」とは「通電時に働く」という意味を持っています。
「無励磁」とはその逆で「通電していない時に働く」という意味があります。
つまり励磁作動形ブレーキは通電した時にブレーキがかかり、無励磁作動形ブレーキは通電が断たれた時にブレーキがかかる ようになっています。
無励磁作動形ブレーキは主に機械または装置の緊急時の制動・保持などの用途で利用されます。
例えば高所作業車などは、異常などが起きて急に通電が断たれた場合、このブレーキが無いと物が乗る部分(バケット)が下がってしまう可能性があります。
無励磁作動形ブレーキを取り付けておけば、通電遮断時にブレーキとしての役割を果たすので、バケットをその場で保持することができます。
電磁クラッチの種類
三木プーリの電磁クラッチには摩擦式の「励磁作動形クラッチ」とカミアイ式の「ツースクラッチ」があります。 それぞれトルクを発生させるための方法が違います。
励磁作動形クラッチは摩擦材を押し付け合うことによって伝達トルクを発生させて動作します。
ツースクラッチはツースと呼ばれるギアの噛み合わせのパワーによって伝達トルクを発生させます。
そのためツースクラッチは励磁作動形クラッチよりも大きなトルクを発生させることができます。
電磁クラッチ・電磁ブレーキの構造と動作原理
以下では「励磁作動形 電磁ブレーキ」「励磁作動形 電磁クラッチ」「無励磁作動形 電磁ブレーキ」の構造と動作原理を紹介します。
三木プーリの電磁クラッチ・ブレーキの種類に記載した通り、
「励磁」とは「通電時に働く」という意味を持っています。
「無励磁」とはその逆で「通電していない時に働く」という意味があります。
また励磁作動形クラッチと励磁作動形ブレーキは、摩擦の力でトルクを発生させますが、
無励磁作動形ブレーキは ばね(スプリング)の力でトルクを発生させます。
理解しやすいような順番で掲載しているので上から読み進めていくと分かりやすいです。
励磁作動形 ブレーキの構造・動作原理
励磁作動形ブレーキの構造・動作原理は比較的イメージしやすいです。
励磁ブレーキには 軸と一緒に動く可動部分と、壁などに固定され動かない静止部分があります。
この図だと、赤い部分が動く所で、青い部分が動かない所です。
この赤い部分と青い部分の間にはスキマがあります。このスキマによって赤い部分は動けるようになっています。
簡単に説明すると、軸と一緒に動いている赤い部分が、青い静止部分に引き寄せられ密着することによって、摩擦(と磁力)の力で軸の回転が止まりブレーキの役割を果たすようになっています。
実際の写真だとこんな感じです。
ブレーキがOFFのときは左側のハンドルをくるくる回せますが、ブレーキをONにすると、軸と一緒に回っていた可動部分が静止部分に引き寄せられ、密着します。
そうすると、軸が回転できなくなるため、ハンドルが回せなくなります。
簡単に説明するとこんな感じですが、以下でもう少し詳しい動作原理を説明していきます。上の図を見ながら読むと理解しやすいです。
まず、ブレーキの電源がONになると、コイルに電流が流れます。すると、コイルの周りのブレーキステータが電磁石のような役割を果たすようになります。
そうすると、磁力によってブレーキアーマチュアが、ブレーキステータのほうに引き寄せられます。
このとき、可動部分のアーマチュアハブとブレーキアーマチュアの間には、「定荷重形状板ばね」という部品があります。
その「定荷重形状板ばね」がばねの役割を果たし、ブレーキアーマチュアだけを軸方向に(ブレーキステータのある方向に)動かすことができます。
こうして、ブレーキアーマチュアは磁力によってブレーキステータに密着します。このときライニングと呼ばれる摩擦材によって摩擦力が発生し、制動が可能になるわけです。
電源をOFFにした時には、この磁気回路が消滅し、「板ばね」のばねのちからでブレーキアーマチュアが元の場所に戻り、ブレーキは解放状態になります。
励磁作動形 クラッチの構造・動作原理
次は励磁作動形クラッチです。
クラッチは動作原理がイメージしにくいため、動画を作成しました。見ていただくとクラッチがどう動いて動力をコントロールしているのかがわかると思います。
以下で動作原理の詳細な説明をしていきます。
下画像のプーリ部分へ動力を伝達するために、クラッチがどのような動作をするのかを例に見ていきます。
まず、赤く囲ってある部分は、ロータと呼ばれ、軸と一緒に動いている部分です。
電源をONにすると、ステータと呼ばれるこの部分に内蔵されたコイルが電気を帯びます。
するとステータ全体が磁石のような役割を果たすようになります。
ここから発生した磁力が、ロータ部分を通り越して、アーマチュアと呼ばれる部分を引きつけます。
赤枠の回転部分と、アーマチュア部分が密着し、プーリは動くようになります。
電源をOFFにした時には、磁気回路が消滅し、ロータはアーマチュアを引きつける力が無くなります。 さらに、このプーリとアーマチュアの間にある、「板ばね」という部品によって、アーマチュアは元の位置に戻ります。 こうしてクラッチは開放状態になり、動力の伝達が遮断された状態になります。
無励磁作動形 ブレーキの構造・動作原理
無励磁作動形ブレーキの動作原理がよくわかる動画をご用意しました。こちらを見ていただくとより無励磁ブレーキの動きを理解して頂けると思います。
以下で無励磁ブレーキの動作原理についてより詳しく解説していきます。
↑無励磁作動形ブレーキは今まで説明してきた励磁作動形とは違い、ばねの力でトルクを発生させます。
動作原理は励磁作動形よりもシンプルです。
簡単に説明すると、
軸と一緒に回る赤い部分が、緑色の部分に押し上げられることによって、青い静止部分に押し付けられて軸の回転が止まり、ブレーキの役割を果たします。
↑無励磁作動形ブレーキは、励磁作動形ブレーキとは違い、電源がOFFの時にブレーキが作動します。
電源がOFFになっているときは、軸と一緒に回る赤い部分が、緑色の部分のスプリングによって押し上げられています。
そうして赤い部分が青い部分に密着することで軸が動かなくなり、ブレーキが作動している状態になっています。
↑電源がONになったとき、コイルが磁気回路を発生させます。(赤い点線)
するといままで赤い部分を押し上げていたスプリングが磁力に負けて、今度は緑色の部分が青い部分に引き寄せられ、密着します。
すると、赤い部分が解放されるため、軸が回るようになります。